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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)935号 判決

本籍

北海道留萌市大字留萌村南山手通五四番地

住居

福岡県福岡市姪浜町二九六三番地

商業

松岡福松

明治四一年四月一六日生

本籍

福岡県福岡市姪浜町二七八六番地

住居

同県同市同町

日傭

光治こと

山崎光次

明治四五年一月一日生

右両名に対する関税法違反幇助各被告事件について昭和二五年二月一四日福岡高等裁判所の言渡した判決に対し被告人等から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決及び第一審判決中被告人両名に関する部分を破棄する。

本件を長崎地方裁判所に差し戻す。

理由

被告人松岡福松の弁護人安藤一二夫の上告趣意第一点について。

所論は、本件船舶かもめ丸は、被告人等の所有ではなく、被告人等が、内国航路に使用する旨使途を偽つて所有者より借受けたもので、所有者においては、右船舶を密輸出行為に使用することは全く知つていないものである。かゝる船舶を単に犯人たる被告人の占有にあるとして没収することを許す旧関税法八三条一項は、憲法二九条に違反するというのである。

しかし本件犯行当時の旧関税法(昭和二三年法律第一〇七号により改正されたもの)八三条一項は、同条所定の貨物又は船舶が犯人以外の第三者の所有に属し、犯人は単にこれを占有しているに過ぎない場合には、右所有者たる第三者において、貨物について同条所定の犯罪行為が行われること又は船舶が同条所定の犯罪行為の用に供せられることをあらかじめ知つており、その犯罪が行われた時から引きつゞき右貨物又は船舶を所有していた場合に限り、右貨物又は船舶につき没収のなされることを規定したものと解すべきであつて、かく解すれば、右条項は何ら憲法二九条に違反しないことは、当裁判所大法廷の判例とするところである。(昭和二六年(あ)第一八九七号同三二年一一月二七日言渡判決参照)。

しかし本件においては、第一審判決は、被告人等の密輸出幇助の犯罪行為の用に使用した船舶かもめ丸の所有者において、右船舶が本件犯罪行為の用に供せられることを、あらかじめ知つていたか否かの知情の点については、何らこれを明確にしないで、たやすく右船舶を被告人等から没収する旨言渡しており、原判決も亦所論の如く判示して所論控訴趣意を退け、第一審判決を支持したのは、結局右関税法八三条一項の解釈適用を誤り、ひいて右船舶没収の前提要件たる知情の事実を確定しない審理不尽の違法があるものであつて、原判決及び第一審判決は、爾余の論旨に対する判断をするまでもなく、既にこの点において、これを破棄しなければ、著しく正義に反するものである。

なお右破棄の理由は、上告をした共同被告人山崎光次に共通であるから同被告人の上告趣意についての判断を省略し、刑訴四一四条、四〇一条、四一一条一号により、原判決及び第一審判決中被告人両名に関する部分を破棄し、同四一三条に則り本件を第一審裁判所長崎地方裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

検察官 福島幸夫出席。

(裁判長裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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